対物レンズの種類と選び方

対物レンズは、顕微鏡の性能を左右する重要な光学部品のひとつです。

生物顕微鏡や金属顕微鏡の場合、標準付属品・オプション品を含めた種の対物レンズが使用できる顕微鏡が多くあります。

対物レンズには「4倍」「10倍」「40倍」「100倍」などさまざまな倍率がありますが、対物レンズを選ぶときに確認したいのは倍率だけではありません。

開口数(N.A.)、アクロマート/プランアクロマート、乾燥系/油浸系、作動距離(W.D.)、カバーグラス補正、有限遠/無限遠補正など、用途に応じて確認する項目があります。

この記事では、対物レンズの主な種類と、それぞれの特徴、用途に合わせた選び方について解説します。

対物レンズとは

対物レンズ(英名:objective lens)は、顕微鏡で観察する試料の近くに配置されるレンズです。

顕微鏡のレボルバには倍率の異なる複数の対物レンズが取り付けられており、レボルバを回転させて使用する対物レンズを切り替えます。
※機種により、対物レンズの本数・切換可否は異なります。

対物レンズには「4X」「10X」「40X」「100X」などの倍率が表示されています。

たとえば、10倍の接眼レンズと40倍の対物レンズを組み合わせた場合、顕微鏡で観察するときの総合倍率は、

10倍 × 40倍 = 400倍

となります。

ただし、対物レンズは単に像を大きくするだけのレンズではありません。どこまで細かな構造を見分けられるかという分解能にも大きく関係しています。

そのため、対物レンズを選ぶときは「何倍で見たいか」だけでなく、「何を、どのように観察したいか」から考えることが重要です。

対物レンズを選ぶときに確認したい項目

対物レンズを選ぶ際は、主に次の仕様を確認します。

確認項目 何がわかる?
倍率 観察像をどの程度拡大するか
開口数(N.A.) 分解能に関係する性能
レンズの種類 像平坦性・収差補正など
乾燥系/液浸系 対物レンズと標本の間に液体を使用するか
作動距離(W.D.) 対物レンズと観察対象との距離に関する仕様
カバーグラス補正 使用するカバーグラスの条件
光学系 有限遠補正または無限遠補正
観察方法 明視野、位相差、蛍光など

すべての項目を毎回比較する必要があるわけではありません。

まずは倍率と観察方法から候補を絞り、必要に応じて開口数(N.A.)や作動距離(W.D.)などを確認していくと選びやすくなります。

1.倍率から選ぶ

対物レンズを選ぶとき、最初に確認しやすいのが倍率です。

低倍率の対物レンズでは広い範囲を一度に観察でき、高倍率になるほど観察対象を大きく見ることができます。

そのため、最初から高倍率で観察するのではなく、まず低倍率で標本全体を確認し、観察したい場所を見つけてから徐々に高倍率へ切り替えるのが基本です。

たとえば、生物顕微鏡では4倍や10倍で観察位置を確認し、その後40倍などへ切り替えて細部を観察します。

ただし、倍率が高ければ高いほど優れた対物レンズというわけではありません。

高倍率になるほど観察できる範囲は狭くなり、一般的には作動距離は短く、また被写界深度は浅くなるため、目的に合った倍率を選ぶことが重要です。

2.開口数(N.A.)から選ぶ

対物レンズには、倍率とともに開口数(Numerical Aperture:N.A.)が表示されています。

たとえば、

40X / 0.65

と表示されている場合、「40X」が倍率、「0.65」がN.A.です。

N.A.は対物レンズの分解能に関係する重要な数値で、一般的にN.A.が大きいほど、より近接した2点を見分けることができます。

つまり、細かな構造を観察したい場合には、倍率だけでなくN.A.も確認する必要があります。

単純に接眼レンズの倍率を高くしたり、撮影した画像をデジタル的に拡大したりしても、対物レンズで分解できていない細部が新しく見えるようになるわけではありません。

「どれだけ大きく見えるか」と「どこまで細かく見分けられるか」は別の要素として考えるとわかりやすいでしょう。

3.アクロマートとプランアクロマートから選ぶ

対物レンズには、収差の補正方法によってさまざまな種類があります。

WRAYMERの顕微鏡で多く使用されているものとして、アクロマート対物レンズとプランアクロマート対物レンズがあります。

両者の大きな違いは、観察像の平坦性です。

一般的なアクロマート対物レンズでは、視野中心に焦点を合わせた場合、視野全体の約60%程度に同時に焦点が合います。

一方、プランアクロマート対物レンズでは、視野全体の90~95%程度に同時に焦点が合います。

そのため、プランアクロマート対物レンズは、平坦な試料を視野の端まで観察したい場合や、顕微鏡用カメラで視野全体を撮影したい場合などに適しています。

なお、倍率やN.A.などの条件が同じであれば、アクロマートとプランアクロマートで「見分けられる細かさそのもの」が変わるわけではありません。

プランアクロマートの主なメリットは、視野周辺まで焦点の合った平坦な像を得やすいことです。

4.乾燥系と油浸系から選ぶ

対物レンズは、対物レンズと標本の間をどのような媒質で満たすかによって、乾燥系と液浸系に分けられます。

乾燥系対物レンズは、対物レンズ先端と標本の間に液体を使用せず、空気を介して観察する一般的なタイプです。

一方、液浸系対物レンズは、対物レンズと標本の間を水やオイルなどの液体で満たして使用します。WRAYMERで取り扱っている液浸系対物レンズは油浸系です。

油浸系対物レンズでは、ガラスと空気の屈折率の違いによる影響を抑えることで、同倍率の乾燥系対物レンズより高い分解能を得ることができます。

その反面、観察時にイマージョンオイルを使用し、観察後には清掃する必要があります。

また、金属顕微鏡のようにカバーグラスを使用せず標本を直接観察する場合など、標本にオイルを付けることが適さないケースもあります。

したがって、通常は乾燥系を使用し、オイルを使用できる標本で、より高い分解能が必要な場合に油浸系を検討すると考えるとよいでしょう。

5.作動距離(W.D.)を確認する

対物レンズの仕様表には、W.D.(Working Distance:作動距離)が記載されています。

特に、表面に凹凸がある試料や、厚みのある試料を観察するときには重要な項目です。

一般的に高倍率・高N.A.の対物レンズでは作動距離が短くなる傾向があります。

実際にWRAYMERの顕微鏡で採用されている対物レンズでも、倍率によって作動距離は異なります。

たとえば、ある無限遠補正プランアクロマート対物レンズの構成では、5倍でW.D. 26.1 mm、10倍で20.2 mm、20倍で8.80 mm、50倍で3.68 mmとなっています。

ただし、作動距離は対物レンズの設計によって異なります。同じ倍率でも長作動距離タイプなどがありますので、実際に選定するときは各対物レンズの仕様を確認してください。

6.カバーグラス補正を確認する

対物レンズは、使用する標本の条件に合わせて設計されています。

特に生物顕微鏡では、スライドグラス上の試料をカバーグラスで覆って観察することが多いため、対物レンズが想定しているカバーグラスの厚さを確認する必要があります。

一方、金属などの表面を直接観察する場合には、カバーグラスを使用しない「ノンカバー」の対物レンズが使用されます。

実際にWRAYMERの金属顕微鏡用対物レンズには、プランアクロマート・カバーグラス不使用の仕様があります。

7.光学系(有限遠補正・無限遠補正)を確認する

対物レンズには、有限遠補正光学系用と無限遠補正光学系用があります。

これは単純な性能の優劣ではなく、使用する顕微鏡の光学系に合わせて選ぶ必要があります。

現在使用している顕微鏡が有限遠補正光学系であれば、それに対応した対物レンズを、無限遠補正光学系であれば無限遠補正用の対物レンズを使用します。

WRAYMERの製品でも無限遠補正光学系を採用した顕微鏡がありますが、製品によって結像レンズの焦点距離が異なります。

交換用の対物レンズを選ぶ場合は、倍率だけを見て選ばず、使用している顕微鏡の光学系と適合するかどうか、さらに焦点距離等の仕様を併せて確認しましょう。

8.観察方法に合った対物レンズを選ぶ

対物レンズには、一般的な明視野観察用だけでなく、観察方法に合わせた専用のものがあります。

たとえば蛍光顕微鏡では、自家蛍光の少ない蛍光用対物レンズの使用が望ましい場合がありますし、位相差顕微鏡では、使用する顕微鏡の位相差用環状絞りの仕様と合致する位相差用対物レンズの使用が必要です。

そのため、対物レンズを選ぶときには前述したとおり

「どの顕微鏡で使うのか」
「どのような観察方法を使うのか」
「何を観察するのか」

を最初に整理しておくことが重要です。

用途から対物レンズを選ぶ

ここまでの内容を、目的別に整理してみましょう。

観察目的・条件 確認したいポイント
広い範囲から観察対象を探したい 低倍率の対物レンズ
細かな構造を観察したい 倍率だけでなくN.A.も確認
視野周辺まで焦点を合わせたい プランアクロマート
顕微鏡カメラで視野全体を撮影したい プランアクロマート
より高い分解能が必要 高N.A.の対物レンズ、必要に応じて油浸系
オイルを使用したくない 乾燥系
凹凸や厚みのある試料を観察したい 作動距離(W.D.)を確認
カバーグラスを使用する カバーグラス補正を確認
金属などを直接観察する ノンカバー仕様を確認
位相差観察を行う 位相差用対物レンズ
対物レンズを交換・追加したい 顕微鏡の光学系や各仕様との適合を確認

「倍率が高い=よく見える」とは限らない

対物レンズを選ぶときに特に注意したいのが、倍率だけで判断しないことです。

たとえば「もっと細かく見たいから、とにかく倍率を高くすればよい」と考えてしまいがちですが、細部を見分ける能力には開口数(N.A.)が大きく関係します。

また、高倍率になると観察範囲が狭くなったり、作動距離が短くなったりするため、観察対象によっては低倍率や中倍率の方が使いやすいこともあります。
特に被写界深度への倍率の影響は大きく、高倍率対物レンズでは焦点が合わせられる面が非常に浅くなるため、僅かな凹凸がある対象物の観察時などには焦点が合わせづらくなり、観察が難しくなることがあります。

さらに、視野全体を撮影するのであれば平坦性、標本にオイルを使用できるかどうか、カバーグラスを使用するかどうかなども考える必要があります。

つまり、対物レンズは、

「何倍必要か」ではなく、「何をどのように見たいか」

から選ぶことが大切です。

まとめ

対物レンズにはさまざまな種類がありますが、選定するときは倍率だけで判断するのではなく、N.A.、レンズの種類、乾燥系/油浸系、作動距離、カバーグラス補正、光学系、観察方法などを確認します。

広い範囲を観察するのであれば低倍率、細かな構造を観察するのであれば倍率とN.A.、視野周辺まで焦点の合った像が必要であればプランアクロマート、さらに高い分解能が必要であれば油浸系を検討するなど、目的によって適した対物レンズは変わります。

また、すでに使用している顕微鏡の対物レンズを交換・追加する場合には、倍率が同じという理由だけで選ばず、顕微鏡本体との適合を確認することが重要です。

対物レンズ本体には倍率やN.A.、光学系、カバーグラス補正などを示す情報が表示されています。それぞれの表示については、以下の記事もあわせてご参照ください。

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